緑の芝生の秘密
ロサンゼルス滞在中はY子さんの家にお世話になった。オフシーズンのこの季節、ロンドンからの往復切符は二百四十ポンド(約四万円)、Y子さんのお陰で宿泊と食事は只なので、総費用五万円で一週間の旅。経済的なのである。
ロサンゼルスの家は平屋が多い。彼女の家も一階だけ。ピンクと白いペンキ塗りの建物が、これまた南国的である。レンガ造りの重々しいヨーロッパの家とは根本的に違う。その家に彼女は家族と犬と猫それぞれ一匹と住んでいる。
住宅地の道路も信じられないくらい広い。Y子さんの家の前の通りも、ロンドンの家の近くのメインストリートよりまだ幅がある。どの家の前にも、ガレージと芝生の庭があった。
翌朝、息子さんを近くの小学校まで送って行った。小学校も平屋で、異様に広い芝生の運動場がある。要するに、「土地はいくらでもありますから、無理して二階建てにしなくてもいいもんね」という感じ。次々とやってくる子供たちを見ていると、アジア人が半分くらいを占めている。前の道路にはやはり「緑のおばさん」が立っていた。「クロッシング・ガード」と言うのだと息子さんが教えてくれた。ちなみに英国では持っている板のついた棒がキャンデー(ロリポップ)と似ているため、「ロリポップウーマン」と呼ばれている。
子供たちを学校へ送ってから、その日、私のために仕事を休んでくれたY子さんが、家の近くの海岸まで案内してくれた。桟橋のうえにシーフードのレストランが並んでおり、その桟橋の上からは釣り人が糸を垂れている。その横は砂浜。日光浴やジョギングをしている人たちがいる。どう見てもリゾート地と言う雰囲気。大都会の中にあるのが不思議な気がする。今日もいい天気で、空はひたすら青い。とにかく年に数日しか雨が降らないというのであるから。
その後、Y子さんが海を見下ろす半島の公園に連れて行ってくれたが、そこも芝生で覆われていた。しかし、雨も降らないのに、なぜこんな緑の芝生が維持できるのか。ロンドンは雨が多いが、それでも夏場に一ヶ月近く雨がふらないと、芝生が茶色く枯れ始める。しかし、ロサンゼルスの公園の芝生は実に青々としている。
よく見ると、芝生の間に一定間隔で黒い筒状の物が埋まっている。スプリンクラーなのである。それで定期的に水をやっているのであった。それにしても、雨が少ないのに、芝生にジャバジャバかけるだけの水があるのが不思議である。Y子さんに聞くと、何百キロも離れた川から、パイプラインでロサンゼルス市まで水を引いているそうである。
そう言えば、今朝、小学校へ行く道でも、かなりの家の前で、スプリンクラーが派手に水を吹き上げていた。
「もう何十年も前だけど、水不足になったとき流行った商売って何か分かる?」
というY子さんのクイズがあった。答えは「ペンキ屋」。枯れて褐色になった芝生に緑のペンキをかけるというのが流行ったらしい。アメリカ人は、どうも緑の芝生の偏愛者であるらしい。