カリフォルニアの青い空

 

 ロンドン発ロサンゼルス行き、アメリカン航空一三七便の飛行時間もあと一時間を残すばかりとなった。例によって機長からの放送が入る。

「現在のロサンゼルス空港の天候は快晴。気温は三十度・・・」

乗客からどよめきが起こる。ロンドンは十一月に入ってからほとんど毎日雨模様、気温も十度を越えることがない肌寒い毎日が続いていた。そんな国から来た乗客にとって、「三十度」という気温は、喜びを通り越して、「そんなことが許されてよいのか」と思うくらい、かなりショッキングな事実であったのだ。

 窓の下には、岩山と砂漠が広がっている。所々雪が積もったように白い物が地上を覆っている。この気候で雪であるはずはない。おそらく塩であろうと想像する。飛行機が高度を下げだして、眼下に人家が広がりはじめる。緑はほとんど見えず、乾ききった土地が広がっている。その中をあくまでもまっすぐな道路が続いている。昨年、シカゴの街を飛行機から見下ろしたが、家と家の間隔がやけに広いほかは、ヨーロッパの街とあまり変わらない印象を受けた。しかし、空から見るロサンゼルスは、ヨーロッパとは全く違っていた。

 空港に降り立つ。空気が乾いているので、三十度の気温にも、日本の夏の暑さのような圧迫感は感じられない。

やたら愛想の良い入国係官の審査を受ける。

「きみのかぶっている帽子、変わってるね。」

と言うのが最初の質問。私はドイツのサッカーチーム「1FCケルン」の帽子をかぶっていたので、その旨を伝える。滞在する場所に、友人のY子さんの住む「トーランス」と言う町の名前を書き、友達のところに滞在すると審査官に伝える。

「トーランスの友達によろしくね。」

と審査官は言った。陽気のせいで、入国審査官まで頭がボケているのであろうか。

 空港の建物から外に出る。時間は午後二時過ぎ。道行く人はTシャツと半ズボン姿が多い。太陽がまぶしいのでサングラスをかける。空はあくまでも青い。ロンドンでもたまには青空が見えるが、カリフォルニアの青空は全く青さが違う。南国の空の色である。

 少しして、友人のY子さんの銀色のBMWが見えた。運転している彼女もサングラスをかけている。私は小学校から高校まで同級生だった彼女の家に一週間居候することになっているのであった。彼女と会うのは二十年ぶりである。

空港を出て、彼女の住むトーランスの町に向かうとき、椰子の木がたくさん見えた。二十メートルはゆうにあり、細長い幹の先のごく上に申し訳程度に葉がついている。

「最初ロスへ来て、あの椰子の木を見たとき、どうもしっくり来なかったわ。」

と二年前東部から移ってきたY子さんが言った。確かにその通り。大都会に椰子の木がニョキニョキ生えている風景には、どうも違和感がある。そして、やたら空が青いことも。