ハンス・ヴェルナー・ケッテンバッハ

四人の舞台

Hans Werner Kettenbach

Grand mit vieren

1977

 

<はじめに>

 

 ドイツの再統一の前、ボンが西ドイツの首都であった頃、そのボンを舞台にした物語である。筆者はマラソンを走るために、二度この町を訪れたが、まず駅からして、田舎の佇まいがある。町の規模も小さく、何となくひなびていて、ここがドイツのような大国の首都であったとは信じられなかった。

その規模と、政治的な役割が不釣合いであった時代と町を舞台にしたストーリー。

 

 

<ストーリー>

 

七十年代の中頃、ボンに住む新聞記者のペーター・グレーヴェは、友人で同じく新聞記者であるクラウス・デルヴォスとともに、政府の特別機でパリに到着する。そこで開かれる「国際テロ対策会議」を取材するためである。

 空港からチャーターされたバスを降りた二人は、ホテルでチェックインを済ませる。そのとき、デルヴォスに届いていた部屋の番号の書いた紙包みが渡される。彼がエレベーターの方へ向かっているとき、フロント係の一人後を追ってきて、デルヴォスの部屋は急遽変更されたと告げ、彼に別の部屋の鍵を渡す。

 グレーヴェが部屋に戻り、荷物を解いていると、爆発音がする。廊下に飛び出し、爆発のあった部屋にかけつける。そこは同僚のデルヴォスの部屋。中には無残なデルヴォスの死骸があった。

 デルヴォスの死んだ部屋、そこは前日まで、会議に派遣されたドイツ代表団の要人、ネッセルラートの泊まっていた部屋であった。ネッセルラートはこれまでテロリスト捜査の責任者であった。

 デルヴォスの死は、ネッセルラートを狙った爆弾テロの、人違いによる犠牲として新聞には扱われる。そして、デルヴォスがフロントで受け取った紙包みに爆弾が仕込まれていたのだと。

 

 しかし、ペーター・グレーヴェにはどうしても納得できないものが残る。クレーヴェとデルヴォスがパリへ向かう飛行機の中で、デルヴォスは、自分に恋人が出来て、彼女と結婚しようと考えていること、その恋人は人妻であること、そして、その年上で金持ちの夫は嫉妬深く、もし自分と彼女の関係が発覚したら、おそらく復讐されるであろうこと、をクレーヴェに語っていた。そのことが脳裏から離れないクレーヴェは、デルヴォスの死が、人違いによるテロではなく、彼自身を狙った殺人でないかと考える。

 ボンに戻ったクレーヴェのしたこと。それは、デルヴォスが結婚する気になっていた人妻の女性を探し出すことであった。デルヴォスのアパートを訪ねたクレーヴェは、書架のデルヴォスの愛読書の中にある、「愛しいリロ」という書き込みを発見する。そして、デルヴォスの秘書の証言や、妻の助言から、終にその女性が、ネッセルラートの秘書、リロ・シュタインカンプであることをつきとめる。

 クレーヴェはリロに接近、強引に彼女を食事に誘い出す。リロはどのような男性にも恋心を抱かせる、不思議な魅力を持った女性であった。強引なクレーヴェに対して、リロも好意を抱き始め、ふたりは終に、肉体関係をもつようになる。

 

 クレーヴェはリロの夫が、デルヴォスが殺された日、パリにいたこと、また彼のパリでの愛人が、爆弾の入った包みを届けた若い女性の人相に似ていることを知る。クレーヴェはリロと関係を持ったまま、今度は夫のシュタインカンプに接近を図る。シュタインカンプはなぜかクレーヴェとリロの関係を知っており、

「なぜ、おれの妻とあんなことをしたのだ。」

どクレーヴェを非難する。クレーヴェは

「なぜ、デルヴォスを殺したのか」

と反撃する。

そのシュタンカンプに突然の死が訪れる。心臓の悪い彼はずっと薬を飲み続けていたが、その薬が他のものにすりかえられていた可能性が高い。

 また、パリで、ナッセルラートも、リロと肉体関係があったこと、ナッセルラートがパリで突然部屋を変えてくれと言い出し、彼のもといた部屋にデルヴォスが入ったということも明らかになる。クレーヴェの疑いは、ナッセルラートに向けられる。果たして、ナッセルラートが、リロと関係を持ったデルヴォスに嫉妬をして、部屋に爆発物を仕掛けておいたのだろうか。

 

 

<感想など>

 

 犯人の目星が二転三転する筋立てがなかなか面白い。テンポも良い。切れのいい小説である。登場人物のクレーヴェ、その妻、リロ、シュタインカンプ、ナッセルラートもそれぞれの性格が浮き彫りになっていて、分かりやすい。

 この小説を読んでいるとき、たまたま舞台になっているボンを訪れた。小説の舞台になっている一九七〇年代、ボンは首都であった。現在訪れてみて、小ぶりで、静かなこの町が、かつて首都であったとは信じ難い。ごく普通の、ドイツの中都市であるように感じられた。

 Grand mit vierenと言う題が訳せないでいる。Grandというのは粗砂、小砂利という意味なのだが、それとmit vieren「四人との」が結びつかないのである。四人とは、クレーヴェ、リロ、シュタインカンプ、ナッセルラートであると想像できるが。それで、個人的に「四人の舞台」と関係ないタイトルを付けておいた。