温泉フリーク

奥丹後、木津温泉、海辺のひなびた旅館にて。

 

 日本人って、本当に風呂好きな国民だと思う。海外に住んでいて、日本へ一時帰国する友人や、任期を終えて帰国する同僚に、必ず、

「日本に帰ったら、一番最初に何がしたいですか。」

と聞くことにしている。「東京ディズニーランドに行きたい」、「パチンコがしたい」などという人は稀で、十人中八人までは「温泉にいきたい」と答える。「ソープランドに行きたい」というのが同じ範疇なのか、判断の分かれるところだが。僕自身日本に帰って最初にすることは銭湯に行くこと。それが一時帰国の楽しみのひとつとなっている。

 今回、四月の下旬から五月の中旬まで二週間、独りで日本に戻ることに決めた。主目的は、京都に住む高齢の父を見舞うことだが、僕は同時に「温泉旅行」に企画した。

出発を二ヵ月後に控えた二月ごろ、僕はインターネットの「温泉検索サイト」で、目的地を探し始めた。この「温泉検索サイト」と言うのがまた充実しておあり、多彩で豊富な情報が手に入り、予約までできてしまうのだ。日本人の温泉フリークぶりがこれでも分かろうというものだ。

生みの母と、大阪に住む姪のカサネに一緒に行かないかと声をかける。ふたりとも大賛成。目指すは、「ひなびた温泉地の小さな旅館」。条件は「京都から一泊で帰って来られる所」。最初、城崎温泉を考えたが、ちょっと有名過ぎる。それで、奥丹後、木津(きつ)温泉、夕日ヶ浦、浜詰、「はまづめ荘」に決めた。紹介写真を見ると「小さな」旅館で、いかにも「ひなびて」いる。「砂浜まで徒歩一分。お部屋から潮風を感じ、夕日をご覧ください!」という紹介文も気に入った。

カサネとのメール交換が始まる。温泉行きを五月三日から四日の一泊と決め、僕がインターネットで旅館の予約を入れ、カサネが京都から木津温泉までの列車の切符を手配した。企画が決まり、母も、カサネも楽しみにしているという連絡が入る。

木津温泉への旅の詳細は、ひとまず後章に譲ることにする。

そして、今回の一時帰国中、全く予想外に、もう一回温泉に行けることになってしまった。それも、木津温泉「はまづめ荘」とは全くもって正反対の場所と建物、加賀温泉郷、山代温泉「山下家」、十三階建のホテルに泊まることになったのだ。

妻の実家のある金沢に着いた日の夜、義母が突然、

「明日は山代温泉へ行く。」

と宣言した。ええ〜っ、マジですか、という感じ。母の話によると、最近一度倒産して、四月から新経営陣でリニューアルしたホテルがあり、平日に四人組で行くと、一泊食事つき六千七百円で宿泊できるとのこと。それで、義父母、叔母のトシエさん、僕の四人で予約が入れてあるという。そのホテルの名前を聞き僕は正直驚いた。山代温泉では一二を争う高級ホテル、昔は最低でも一人二万円は出さないと泊まれなかったホテルだったからだ。

結果として、今回の一時帰国は、「日本海側温泉廻り」の旅となったわけだ。

 

かたや、お城の天守閣のような、山代温泉のホテル。

 

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