琴とジャズ

 

 イズミが夕食の半ばで言った。

「今晩、私がジャズピアノ習ってる先生のライブがあるねん。よかったら、これから一緒に行かへん?」

異存はない。イズミのお姉さんのサクラさんと、サクラさんの家にホームステイしているアメリカ人の女の子も一緒に来るという。

 隣の席の、ドイツはアーヘンから来たカップルに別れを告げ、ふたりで、先ずアメリカ娘ローラとの待ち合わせ場所、四条烏丸北西角に行った。セーターにジーンズ、大柄でちょっと猫背の、金髪をポニーテールしたお姉ちゃんが立っていた。それがローラであった。

 そこからタクシーで、花見小路のジャズ喫茶へと向かう。タクシーの中で、ローラと英語で話をする。彼女はフルブライト奨学生で日本に来ていて、平安時代の日本の宗教について研究していると言う。それに、琴も習っていると言った。横で英語の会話を聞いていたイズミが、

「よーし、今日は、皆、英語で話すことにしよう。私もそうするし。」

と言った。実際、その後、イズミはずっと結構英語(らしきもの)を話していた。

 タクシーは四条通を一力茶屋の角で北に入り、間もなく停まった。イズミの案内で、「キャンディ」と書かれた看板の挙がったドアを押す。中では、ヴォーカル、ドラム、ベース、トランペット、それにピアノの五人が演奏をしていた。ピアニストがイズミの先生とのこと。狭い場所で、ステージを除けば、十人くらいしか座るところがない。イズミとローラと私は、ピアニストの後ろに座った。黒いワンピース、ちょっとハスキーで、パンチのある声を出すヴォーカルの若い女性は、ベース奏者の奥さんらしい。狭い場所でハイヴォリュームなので、演奏中にお隣さんと会話をすることが難しい。

 演奏の合間にローラと話す。場所が場所だけに、音楽と楽器の話題になり、「琴」について、私が質問することになってしまった。

「琴って、弦は何本あるの?」「何本の指で弾くの?」「楽譜はどんなの?」

そんな私の「素朴な質問」に、ローラは、琴の弦は十三本が普通であること、三本の指で弾くこと、楽譜は漢数字で弦の番号が書いてあること、などを几帳面に説明してくれた。リズムの表記も説明してくれたが、忘れてしまった。気がつくと、質問しているのが日本人、答えているのがアメリカ人。話題が「琴」。これ、完全に立場が逆ではないの。

 少しして、サクラ姉さんが現れる。イズミ、サクラ姉妹は若い頃、結構可愛いので評判だった、と思う。おふたりとももう五十近くになられたが、ともかくも、美女三人に囲まれて、私は楽しい夜を過ごしたのである。

私はクラシック音楽専門で、普段ジャズは聴かないが、ジャズライブの印象は結構良かった。今後は、たまに、ジャズも聴いてみようと思う。ロンドンに戻ったら、妻に一度生演奏に連れてもらおう。でも、妻の趣味はジャズではなくロックだったかな。

 

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