お姉さんたちの趣味
沖縄料理店では、結構珍しいものが食べられた。「海ぶどう」とか「豚の耳」とか。三十分ほどして、ヨネちゃんの妻、ノリコさんが到着。彼らは昨年の十一月にオーストラリアで結婚式を挙げたばかり。美人の奥さんをゲットしたヨネちゃんの目は、「トムとジェリー」のトムが可愛いメス猫に会ったときのようにハート型になっている。彼らの結婚式が一通りの話題となる。酒の強いヨネちゃんとミサちゃんは、快調にビールや泡盛の杯を重ね、病み上がりのノリコさんと私は、「苦瓜のジュース」などを飲んでいた。
そのうち、「趣味」の話になった。ちょっと合コンみたいな話題の展開である。ヨネちゃんの趣味は山登り。私の趣味はマラソン。この辺りは既に知れ渡ってしまっている。しかし、ノリコさんの「趣味」を聞いたとき、ミサちゃんと私はのけぞってしまった。「四国霊場八十八箇所廻り」、それも全部歩いて。彼女は、高校の卒業記念に、友人たちと、東海道五十三次、江戸日本橋から、京都三条大橋まで歩いたこともあるという。ノリコさんが歩くのが好きで、大学で日本史を専攻していたことは知っていたけれど、そこまでは・・・
彼女は、白い装束を着て、杖を突いて、四国の寺々を歩いて廻ったという。一回では無理なので、何回かに分けて。そして、八十八箇所を廻り終えた後、最後に「お礼参り」ということでまた最初に戻り、最後は高野山にお参りをして締めくくったとのこと。霊場廻りをしている人たちを助けることは、功徳になるということで、彼女は「お遍路」の途中、土地の人にミカンとか食べ物を貰ったり、食堂で見知らぬ人に勘定を払ってもらったりした経験があるという。また、土地の見知らぬ人の家に泊めてもらったことも。巡礼を終えたときの達成感は、とてもマラソン四十二キロを完走したときの比ではないと想像する。しかし、余りにも知らないことが多く、ちょっと想像を絶する世界である。
ミサちゃんの趣味は「歌舞伎鑑賞」。その日お越しいただいたお姉さんたちの趣味は本当に純日本風。奥床しい方ばかりである。
「歌舞伎って、見るの、高いんでしょう。」
とミサちゃんに聞くと、当日券は全然高くないとのこと。少し驚く。
「ちょうどそこの歌舞伎座でやってますから、明日、見てらしたらいかがですか。」
「ええっ、そんなこと出来るの。」
ミサちゃんは、歌舞伎には、一幕だけ見ることのできる格安席があること。平日の昼の部はそれほど混んでいないので、始まる少し前に行けば切符が手に入ることを説明してくれた。私は、何となく、その気になってきた。
午後十時半過ぎ、私は三人と別れ、品川のホテルに戻った。午後十一時過ぎ。私は、少しの間、最上階の展望ラウンジに行った。夜景が美しい。高層ビルの上に取り付けられた赤いライトが、灯台のように点滅している。スコッチの水割りを英語で頼む。一杯千五百円。でも、これは場所代。高いとは思わない。私はバーにいる間、何故か、全てを英語で済ませた。気分は「ロスト・イン・トランスレーション」。