二十二年ぶりと、半年ぶり

 

 金沢で大学に通っているとき、アパートに同居人がいた。相手が女性なら「同棲」、もしそうなら学生生活はもっとバラ色だったのだが。残念ながら同居人は常に男性。浅野本町、粟森アパートの3Kを、最初は文学部の同級生のミツル、彼が卒業してからは陸上部の後輩のトールと一緒に借りていた。今風に言うと「フラットシェア」、ドイツ語では「ヴォーンゲマインシャフト」。当時の金沢では、そんなパターンで暮らしている学生が多かった。

ミツルもトールも僕とよく気が合ったし、下宿に帰って話し相手がいるっていうのも、ストレス解消のためには結構よかった。(学生にストレスがあればの話だが)夕食は、ミツルあるいはトールと僕が毎日交互に作っていた。他人に食べさせるとなると、結構凝った物を作るので、三人の料理の腕はその期間に飛躍的に上がった。ミツルと最後に会ったのは二十二年前、トールは僕の結婚式に来てくれたのが最後だから二十年前だ。ふたりとも最近音信が途絶えている。それぞれ職に就き、家庭を持っているのだろう。

 近年日本に帰るとき、何年も会っていない人に連絡をとり、いわゆる「涙の再会」をよく企画するようになった。去年は大学時代のガールフレンドと二十年ぶりに会った。今回はミツルに的を絞った。彼の住所は分からない。しかし、彼の働いている飛騨高山の家具会社の名前が、微かに僕の記憶に残っていた。僕は彼がまだ同じ会社で働いていることを祈りつつ、ホームページで調べた代表メールアドレスに、メールを送ってみた。「ナカタ・ミツルさんにご連絡いただくようお願いいたします」って書いて。そうしたら、翌日早速ミツルから返事が来た。埼玉に住んで、東京で働いているそうだ。それが今年一月。そして今回、東京で会うことになった。

 三月二十四日の午後、僕は新幹線で東京に向かった。東京では、もうひとりに、厳密に言うともうひとカップルに、会うことになっていた。ロンドンの会社の後輩で、友達でもあったトメちゃんである。彼は、数年前ロンドンである女性と結婚式を挙げた。僕はその仲人をした。しかし、彼等は八ヶ月後に離婚してしまった。がっくり。彼は今日本へ戻って働いている、そのトメちゃんがまた彼女を見つけたのだ。そして、その相手の女性に会って欲しいとのこと。ミツルと、トメちゃんと、その彼女、彼らと同じところで、まとめて一度に会ってしまおうという計画であった。

トメちゃんが品川の店を予約してくれていたので、僕は品川で降り、取りあえず駅前に聳える高層ホテルの一室に眠る場所を確保した。そして、本当にそこで眠ってしまった。眼が覚めると午後六時、品川駅の構内を横切って、待ち合わせ場所に向かった。一度道に迷い、駅前の交番で場所を聞いて、魚料理の美味しそうな小さな居酒屋に到着。

 十分ほど遅れて、トメちゃんと彼女が現れた。トメちゃんとは半年ぶり。彼らが誇らしげに婚約指輪を見せてくれる。へーえ、もう婚約したの。フィアンセは、なかなか爽やかな感じの、感じの良い女性だった。また十分ほどして、ミツルが現れた。髪の毛がすっかり薄くなっているが、一目で彼と分かった。話し始めたが、口の悪さは相変わらずだった。

 

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