相撲場風景(その二)
テレビで見ていると、暗い中に土俵が浮かび上がっているような印象を受ける。しかし、館内は随分と明るい。そして、何より、館内がカラフルなのだ。力士の回し、行司や呼び出しの衣装、土俵の屋根から垂れる房までが原色の世界、派手派手しいのだ。それらが、歌舞伎の舞台のような、超現実的で賑々しい雰囲気を醸し出している。
もうひとつは、体育館のフロアに段々畑のように作られた桟敷席である。府立体育会館は普段はもちろんバレーボールやバスケットボールなんかやる普通の体育館。バレーボールが三面くらい取れるフロアに、金属のパイプを組み合わせて巨大な桟敷席が組んである。よくこんな大掛かりなものを作り、また分解するものだと感心した。
僕の座ったのは、二階席、つまり、体育館の本来のスタンドだった。土俵までは三十、四十メートルはあるが、それでも結構よく見える。先ず、コンビニで買ってきたビールを飲む。玄関で「今日の取り組み」という紙をもらったので、隣のおじさんに今どのあたりか教えてもらう。幕下の取り組みが残り数番というところらしい。隣のおじさんは、取り組みが一番終わるたびに、勝ち負けを「今日の取り組み」に書き込んでいる。場内は見事なほどガラガラ。まあ、これから取り組みが進むにつれて人が入るのだろうと、その時は思った。
生で見る相撲は、意外に面白かった。相撲そのものよりも、土俵の周りをウロウロしている人たち、行司や呼び出し、審判員、これから土俵に上る力士や、取り組みの終わった力士たちを観察していると全然退屈しない。相撲自体も動きが速く、それなりにスリルがあって面白い。しかし、テレビと違い、スローヴィデオでもう一度というわけにいかないので、勝負がもつれると、何が起こったかよくわからないままだ。
十両の取り組みが終わり、幕の内力士と横綱朝青龍の土俵入りがあった。土俵入りの際の力士の化粧回しはかなりキッチュな世界だ。気が付いたのだが、幕内力士は、自分の名前を書いた座布団を持っている。力士に先立って、先ず「若い衆」が座布団を持って現れ、取り組みが終わるとまた座布団を取りに来る。その座布団がまた原色でド派手なこと。
ぼちぼちと僕が名前と顔を知っている力士が登場し始めた。昔からいる「琴の若」とか。しかし、館内はガラガラのままだ。土俵の周りのいわゆる「砂被り」の辺りには、揃いの茶色のハッピを来た人たちが座っているが、一階の桟敷席は五分の入り。二階席になると完全に空席の方が多い。いくら横綱が独走している場所とは言え、この不入りはひどい。
売店で番付を一枚五十円で売っていたので記念に数枚買う。番付には、極細の字で、全力士の出身地と名前が書いてあるのだが、出身地を見てびっくり。「モンゴル、モンゴル、グルジア、モンゴル、ロシア、モンゴル・・・」いや、外国人の多いこと。よく見ると、観客席も二割ほどが外国人観光客みたい。やる方も、見る方も国際的だ。
面白い取り組みをあったし、あっけないのもあった。やっている力士は真剣なのだろうが、外国人観光客の多さを考えると、相撲もバスツアーの中の「花魁ショー」のようなものになりつつあるような気がした。まあ、十分に話の種になったので、良かったとも思った。