結婚式場風景

 

夕方になり、Mさんの車で式場に向かった。この気候で不向きだと思ったが、一応結婚式なので薄い色のスーツにネクタイ着用。でも上着はとても着てはいられない。車の中でMさんに、式には何人くらい招待したのかと聞いた。

「五百人くらいかな。そんなもんだろう。」

Mさんは余り興味なさそうな返事。どうして正確なところが分からないの、食事なんか何人分用意するの、不思議に思う。

車はスリランガムの式場に着いた。式場は「マハール」と呼ばれており、町の中心にある多目的ホールみたいなもの。ちょうど小学校の講堂くらいの大きさで、講堂と同じように舞台が付いている。儀式はその舞台で行われる。二階が食堂になっていて、参列者は二階に上がり食事を取れるようになっているらしい。

ホールに冷房はなく、天井から十台くらいのファンがブンブンと回っている。天井に渡した紐から七夕飾りみたいなものがぶら下がっており、ファンの巻き起こす風に揺られて、キラキラと輝いている。

私が着いたときは、まだ儀式は始まっていなかったが、既に五十人以上の人が集まっていた。女性はサリー、男性は普通のシャツにズボンか腰巻、サンダル履きである。入り口の脇に机が置いてあり、その後ろに十五歳くらいの可愛い娘さんがふたり立っている。机の上には砂糖の入ったトレイと、水差し、赤と黄色の粉が置いてある。お客さんは到着すると、先ず砂糖を少し口に含む。その後、娘さんがサッサッと水を振りかけてくれ、赤と黄色の粉で額に印を付けてくれる。これらが歓迎の儀式らしい。

水をかけてもらったとき、何ですかと聞くと少女は「ローズウォーター」だと言った。バラから採った水らしい。いい匂いがする。私も額に赤い星を書いてもらう。Mさんが、よく似合うと言ってくれた。気分はもうヒンドゥー教徒である。Kは腰布に上半身裸といういでたちで、次々とやってくる訪問客に挨拶をしている。

舞台の上では、長髪を後ろで束ね、腰に白い布を巻いただけで上半身は裸のヒンドゥーの僧侶たち数人が腰を下ろして何やら打ち合わせをしている。稽古を終えチャンコの出来るのを待つ間雑談する相撲取りという感じ。僧侶のひとりはイタリア映画、マカロニウェスタンのバッド・スペンサーに似ている。横にはミュージシャンたちがスタンバイ。ラッパがふたり、男と女なのでご夫婦か。それにドラムがふたり、計四人である。

舞台の赤い背景に、ひとつが縦横二十センチはある発泡スチロールを切り抜いた文字で、Kと新婦の名前が貼り付けてある。

待っている間に、何人かと人たちと話す。Kの家族親戚の何人かは早朝に会っているので、話のきっかけがつかみ易い。皆気さくな人たちである。年配の人たちに英語に喋れない人もいるけれど、若い人たちは、上手な英語を話すし、好奇心いっぱいで私に話しかけてくる。そして、若い女性は誰もゾクッとするほど少し神秘的な美しさを持っていた。