「永遠の若さ」

原題:The Waters of Eternal Youth.(永遠の若さの水)

ドイツ語題:Ewige Jugend

2016

 

<はじめに>

 

「コミッサリオ・ブルネッティ」シリーズの第二十五作。この作品の映画化の際、エレットラ役の、アネッテ・レンベルクが

「一九九九年からずっとこの役をやっている。」

と言っているので、その長寿ぶりが分かる。

 

 

<ストーリー>

 

ブルネッティと妻のパオラは、パオラの両親の友人である、ランド・コンティヌイ伯爵夫人の夕食に招かれる。伯爵夫人は、八十歳を超えていた。帰り際、伯爵夫人は、

「相談したいことがあるの。明日、もう一度ここへ来てくれない?」

とブルネッティに尋ねる。ブルネッティは、翌日の午後、伯爵夫人を訪れることを約束する。

翌日、再度訪れたブルネッティに、伯爵夫人は、自分の孫のマヌエラについて話をする。

「マヌエラは壊された。」

と夫人は述べる。マヌエラは十五年前、運河に落ちて、危うく溺死しかかった。そして、そのときの酸素不足の後遺症で、脳に異常をきたし、現在は六歳程度の知能しか持たないと夫人は言う。彼女は、自分が死ぬまでに、孫の身に起こった事件の真相を知りたいという。そのために、ブルネッティに協力してほしいと懇願する。

十五年前の事件は、マヌエラが誤って運河に落ちた「事故」として処理されていた。しかし、マヌエラは、四歳の時、海岸で波にさらわれ、溺れかけたことがあり、それ以来、水を恐れ、運河の近くに寄ったり、船に乗ったりすることを極端に避けていた。また、彼女が何者かにより、運河に突き落とされたという目撃者もいるという。それは、彼女を助けるために運河に飛び込んだ男の証言だった。しかし、その男カバーニは酒に酔っており、当時、警察はその男の言うことを取り上げなかったという。

夫人は、息子が嫁と別れた後、嫁に引き取られた孫、マヌエラを支援してきという。特に、夫人は、乗馬の好きなマヌエラのために、馬を買ってやり、トレーニングや馬の維持費も払ってやっていた。しかし、事件のあった数週間前から、孫のマヌエラは、祖母に連絡をして来なくなったという。

夫人は、ブルネッティに、改めて捜査をしてくれるように依頼するが、ブルネッティは、十五年の月日を考えて、最初は首を縦に振らない。しかし、生きている間に真相を確かめたいという老人の熱意に負け、捜査をすることを約束する。

ブルネッティは、今回も、署長パッタの秘書でコンピューターの達人エレットラ、同僚の警視クラウディア・グリフォーニ、古からの仲間のヴィアネロの協力を得て捜査を開始する。伯爵夫人は、ヴェニスでは実力者であった。権力に弱い署長のパッタのOKを得ることはと容易だった。

ブルネッティは、エレットラに、当時の警察の調書を調べさせる。マヌエラを助けた男、ピエトロ・カバーニは、マヌエラを自ら引き上げた後、警察に、

「彼女は誰かに突き落とされた。」

と述べた、しかし、そのまま眠ってしまった。彼が目を覚ましたときには、自分のした証言を忘れてしまっていた。伯爵夫人によると、マヌエラは今年三十歳になるが、知能や行動パターンは、五、六歳のままで止まっているという。ブルネッティは、検死医のリザルディに電話を架け、当時の医療記録を得ようとする。しかし、十五年前の資料は残っていなかった。

ブルネッティは、マヌエラを運河から引き揚げたピエトロ・カバーニに連絡を取る。ふたりは、翌日の昼、レストランで会うことを約束する。

 当時の様子を知るために、ブルネッティとクラウディアは、マヌエラの通っていた乗馬クラブに行く。クラウディアは、かつて乗馬のオリンピック代表だった。彼らは、そこに、マヌエラの所有していた馬が、まだ生きていることを知る。二人は、マヌエラを乗馬クラブに連れていき、かつての持ち馬と再開させることを計画する。

 翌日の昼、カバーニに会うために、ブルネッティは約束したレストランへ行く。しかし、カバーニは現れない。レストランの主人から、カバーニの住まいを聞いたブルネッティは、そこへ向かう。家の中では、カバーニが射殺されていた。

 マヌエラは、かつての自分の馬に会って大喜びをする。帰り道、ブルネッティ、クラウディアがマヌエラと別れた直後、ある事件が起こる。ブルネッティは、十五年前の事件をもみ消そうとしている人物がいることを知る・・・

 

 

<感想など>

 

タイトルの「永遠の若さ」は、溺死しかかって、脳を損傷したため、六歳程度の知能しかもたない、マヌエラを表している。しかし、「永遠の子供」である彼女の行動は、なかなか微笑ましく、交換が持てる。

今回も、メインストーリーのほかに、幾つかのサブストーリーがある。ひとつは、ヴェニスに住み始めた黒人たち。彼らはこれまでヴェニスに住み着いた黒人より威圧的で、イタリア語もほとんど話さない。平気で市民を脅したりする。しかし、政府は、彼らに住居を与え、一日五十ユーロの手当てを払っているという。その金額を三十倍すると、公務員の税引き後の手取りよりも高いという。欧州における移民への温情主義と、その矛盾が描かれている。

もう一つは、署長パッタのコンピューターに対する、ハッキング事件である。そのハッカーを追っていくと、何と内務省のコンピューターに行き当たる。

ヴェニスを洪水から救うため、拒否を投じて、「モーゼ・プロジェクト」による巨大な可動式に閘門が作られた。これが上手く働かず、ヴェニスは相変わらず洪水に襲われることが描かれている。

今回も、ブルネッティの操作方法は、人と人とのつながりを利用していくもの。友達の絆が情報源であることに変わりはない。

20214月)

 

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