目にはさやかに見えすぎる
アザミの揺れる野原はもう秋の気配。昼休みの散歩の途中で。
八月三日、月曜日、今日からドイツ出張。朝五時、迎えのタクシーで家を出て、スタンステッド空港に向かう。高速道路十一号線から見る朝焼けがきれいだ。脂身のたっぷり混ざったベーコンを並べたような雲が地平線近くに見え、間もなく太陽が昇り始める。
「今日は良い天気になりそうだ。」
と僕は呟く。しかし、最近は朝天気が良いからといって「油断」はできない。そんな日は、午後から雷雨になることが多いのだ。
実際、英国は、最近ずっと「はっきりしない」天気だ。七月の初め、「毎日晴天ギャランティー」のクレタ島からロンドンに戻ってきて以来、毎日雨が降っているような気がする。「バーベキュー・サマー」つまり、「屋外でのバーベキュー日和の続く暑い夏」と予測した英国気象協会は、今ブーブー文句を言われている。責任を取って辞任した人はいないが。
「英国で天気の悪いことを嘆くのは、八百屋でイワシがないことを嘆くのと同じである。」
なんて言葉を聞いたことがある。しかし、夏だもの、ほどほどにお日様が照って、ほどほどに暑いにこしたことはない。
「また雨やね。」
会社で窓の外を見ながら同僚と話をする。
「これで、今日は花壇に水やりをしなくて済む。」
うーむ、何事もポジティブに考える人間はいるものだ。確かにそうだ。例年ならば、夏の間ほぼ毎日ホースで庭の花に水をやらなければならない。それが今年は、クレタ島から帰って以来、一度も水やりをしていない。それなのに、庭のアジサイやバラは元気だ。
雨だけならまだしも、気温も低いのには参る。ここのところ、最低気温が十二度くらいで、最高気温も二十二度くらいまでしか上がらない。朝六時前、犬の散歩に外へ出ると息が白い。庭に四本あるリンゴの木の実が大きくなり始めた。芝刈りをする前、芝刈り機に巻き込まないように、バケツを持って、風で落ちたピンポン玉くらいのリンゴを拾い集める。そんなとき、七月なのに、もう秋の気配を感じてしまう。
「秋きぬと目にはさやかに見えねども 風の音にぞおどろかれぬる」(古今集・藤原敏行)
なんて生易しいものじゃない。「さやかに見える」どころか、もう目の前に秋がブラーンとぶら下がっている感じなのだ。
一昨日の土曜日の午後、数人の友人を呼んでバーベキューをした。
「天気が良くなるといいですね。」
と招待者の皆が返信メールに書いてきてくれた。果たして、その日も曇り空だった。しかし、庭のテラスに張り出すようにガラスの屋根を付けたので、最近は、その下で、晴雨に関係なくバーベキューをすることができる。もちろん、カラッと晴れた天気の中、夕陽を浴びながら、冷たいビールを飲みつつ、バーベキューをするのが、最高のシナリオなのだが。夕方になり、雲行きがまた一段と怪しくなってきた。
バーベキューを焼くショージくん。屋根があるから雨が降っても安心。