てっぺん猫の謎

 

岩のてっぺんで会った子猫たち。

 

別れ際、老夫婦の奥さんの方が、ポヨ子の靴を見て、これからその靴で上るのなら、滑りやすいからよっぽど注意しなければいけないと言った。我々は自分の足元を見る。踝まである軽登山靴を履いているのは妻だけ。僕はテニスシューズ。ポヨ子は今流行のペラペラの運動靴。つまり、まともな装備をしているのは妻だけ。だって、山に登るなんて、想像してなかったもん。娘は、老婦人の一言で不安を感じたのか、一段と不満そうだ。

ともかく、妻と私は不満気なポヨ子の顔を無視して、上を目指すことにした。岩を刳り貫いたトンネルに入る。平均して幅一メートル半、高さ二メートルくらいだが、それも一定していない。中は湿っていて滑りやすい。両側にロープが張ってあって、それにつかまり、歩を進める。三十メートルくらいのトンネルを抜ける。反対側に出るが、足場の悪さ変わらない。滑りやすい石灰岩の岩場に細々と道が続いている。いやだよ、帰ろうよというポヨ子をなだめすかし、足だけではなく、両手も駆使して登る。登っている人たちは驚くほど少なく、途中、ふたりの男性と、オランダ人の父子と出会っただけ。降りてきた人に、方向を確認しながら進む。三十分後、ようやく僕たちは岩の頂上に立った。

岩がカルベの街のみならず、近郷近在から見ることができることは、とりも直さず、岩からは近郷近在が見渡せると言うこと。深い青緑色の海、両側の湾に沿って広がるホテル街、その向こうに広がるわずかな土地、その向こうにそびえる岩山。なかなか見ごたえのある眺望だった。特に海の色が印象的だ。

驚いたこと、それは岩の頂上に、二匹の子猫がいた。一匹は、黒と黄色の虎猫、もう一匹は薄茶と白の縞猫だ。可愛い顔をしている。妻とポヨ子が弁当のサンドイッチや、ポテトチップスをやると、恐る恐るやってきて、それでも喜んで食べている。

ここで、僕にはひとつの謎が生まれた。この子猫たちは、どうして三百メートルの岩山を登ったのかという点だ。妻に言うと、

「猫は木登りが得意だから崖も上るんじゃない」

と実にあっさり言う。しかし、僕には、猫は木登りの能力は備えているが、三百メートルの崖を登る根気を備えているとはとても思えないのだ。どう見ても飽きっぽい動物。

下山の途中、上ってくる英国人の家族連れの子供に、

「頂上まで登るとネコちゃんに会えるよ。」

と言った。ふたり子供たちは、

「ええっ、こんな岩の上に猫がいるの。」

と驚いている。すると、子供たちの父親が、

「そお、きっとカモメにさらわれて、上まで連れて来られたんだね。」

と言った。

 うーん。どっちだろう。僕は、妻の「自分で登ってきた説」よりも「カモメに連れ去られた説」の方を、支持したくなってきた。

 

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