カレッジって何?
ゴンヴィル・アンド・ケイアスのホール。
Y君は、マーケットスクエアから、商店街に出ると、道路脇の小さな木で出来た門を潜った。そこが「ゴンヴィル・アンド・ケイアス(Gonville and Caius)カレッジ」だった。先ほどのキングス・カレッジの半分以下の規模、こじんまりしているが、お約束通り、建物に囲まれた正方形の中庭があった。中庭にはリンゴの木があり、ピンクのリンゴがたわわに実っている。結構良い雰囲気。「わあっ、きれい」などと言っている妻と僕を残して、Y君は中庭をスタスタと進んでいく。僕たちは中庭の左手のドアから建物の中に入った。
「ここのカレッジには友人がいて、何回か来たことがありますから。」
Y君のその言葉通り、Y君は建物の中で、何人かの若者と親しく挨拶をし、言葉を交わしている。階段を上がり、僕たちは「ホール」に入った。
「ハリー・ポッター」の映画を見られた方は、「ホグワース魔法学校」のホールを想像していただきたい。まさに、あの雰囲気。英国の伝統的な寄宿舎制の学校では、ホールに皆が集まって食事をする。大抵は、天井が高く、濃い色のニスが光沢を放つ木の壁には歴代の校長の肖像画が架かっている。そして、長いテーブルと長椅子が並んでいて、学生たちはそこにずらりと座って食事をするのだ。ちなみに、「ホグワース」のホールは、オックスフォード大学、キングス・カレッジのホールを使って撮影されたと聞いている。
とにかく、ゴンヴィル・アンド・ケイアス・カレッジのホールも、小振りではあるが、それらのお約束を全て守ったものだった。ちょうど昼食の時間。食事を乗せたお盆を持った学生が、行き交っていた。ちょうど食事をしていたY君の友人のひとりに、写真を撮ってもいいかと聞くと、
「いいんじゃないですか。」
と言う返事。それで遠慮なく撮影させてもらった。さすがにフラッシュは焚かなかったが。
この辺りで、ケンブリッジ大学の「カレッジ」について、若干の説明が必要だろう。僕も、それまでよく知らず、Y君に根掘り葉掘り質問して、やっとその本質が理解できた。
ケンブリッジとオックスフォードの「カレッジ」は学寮と訳される。学生たちが、文字通り寝食を共にする場所だ。しかし、学生は「カレッジ」に属すると共に、「ファカルティー」つまり学部にも属している。Y君の場合、昼間は彼の「ファカルティー」、つまり文学部へ講義を受けに行き、「カレッジ」に戻ってからはカレッジの専属教官、「チューター」の指導を受けるという。つまり、学部と学寮の両方に担当教官がいるということになる。
また、ひとつの「カレッジ」には、文学部の学生もいるし、理学部の学生もいるし、医学部の学生もと言う具合。つまり、各学部の学生が満遍なくいるとのこと。そして、学生の選択はカレッジ毎に行われるという。つまり、志願者は、大学ではなく「カレッジ」に対して入学願書を出し、「カレッジ」毎に合格者が決まるわけだ。そんな、「カレッジ」がケンブリッジには現在三十一ある。Y君は「ガートン(Girton)・カレッジ」に所属している。ちなみに息子の通うウォーイック大学には、「カレッジ」はなく、学部があるだけだ。