ウィーンはどうだった?
一ヶ月に平均二回は飛行機に乗って外国へ出ている。パスポートは入出国のスタンプで真っ黒。こんな調子で休暇が取れたら最高なのだが、残念ながらほとんどが仕事の旅である。
七月にウィーンへ行ったが、幸か不幸か、訪問した顧客の事務所は空港の敷地の中。朝空港に着いて、歩いて仕事場に行き、昼食は空港の食堂でガラス越しに発着する飛行機を見ながら食べた。夕方は歩いて飛行機の乗り場まで行き、そのまま飛行機に乗って帰って来た。限られた仕事時間を最大限に使えるのは、それはそれで良いことだ。
英国に戻り家族や同僚に
「で、ウィーンはどうだった?」
と聞かれ、私は答えに詰まった。
「実は空港から一歩も出なかった。」
と、正直に告げると、質問者は異口同音に
「何てもったいない」
と言った。
しかし、どこへ行っても、出張である限り、多かれ少なかれその時のウィーンと同じような状況である。パリでも、ローマでも、ブリュッセルでも、ホテルと仕事場と空港にしか知らない。仕事なんだから、遊びに行ったわけではないんだから、それは仕方がないと自分に言い聞かせている。出張でどこかへ行くときは、そこで観光することなんか、端から諦めている。
偶然、良い目に遭うこともないではない。
もう十年以上前だが、フランスへ出張に行ったとき、開通間もない世界最速列車TGVに乗れたことがあった。週末に、二台のコンピュータの中身を一台にまとめる仕事で、機械の一台は北部のリールに、もう一台はパリにあった。私は、リールのコンピュータの中身を吸い上げた磁気テープを持って、土曜日の朝、TGVでリールからパリへ向かった。しかし、よく考えてみると、VIP扱いの主役は私ではなく、磁気テープだったのであった。
出張中は少し早起きして、宿泊先のホテルから少しジョギングをして、その土地の空気に少し触れるのが、ささやかではあるが、私の楽しみである。