科学で証明できないこと

セント・メアリー・レッドクリフ教会。尖塔は一度嵐で倒れ、何年もかかって修復された。

 

大聖堂を出た僕たちは、もうひとつの教会、セント・メアリー・レッドクリフ教会へ向かって、歩き出した。先ほども書いたが、協会ばかり余り見すぎると、飽きてくる。今日も、教会はふたつくらいにしておこう。

 運河を渡る。しかし、不思議な町並みだ。伝統的な建物と、近代的な建物が、入り乱れて立っている。普通の英国の町は、オールドタウンとニュータウンに別れていて、中央に古い町並みが保存され、新しい町並みがその周囲にあるものなのだが。

 ブリストルは第二次世界大戦中、「ルフトヴァッフェ」、つまりドイツ空軍の空襲で大きな被害を受けたらしい。空襲の標的になるということは、取りも直さず、ブリストルが産業、特に製造業の中心だということを示している。二〇〇三年に退役した超音速ジェット旅客機「コンコルド」は、英国製造の第一号機が一九六九年にブリストルで作られ、ここで初飛行をしている由。

一際高い、よく削った鉛筆のような塔のある、セント・メアリー・レッドクリフ教会は遠くからでもよく分かる。境内(って言うのかな、教会でも)に足を踏み入れると、教会の前の芝生には、若者たちが集まっている。男の子女の子混合の幾つかのグループになって、何やら楽しそうに話をしている。伝統の権化のような古い教会と、屈託のない若者たち。このコントラストは絵になる。そんな若者たちを見ていると、自分の大学の頃を思い出す。

「学生の頃が人生で一番楽しい時期だったような気がしますね。」

僕は義母にそんなことを言った。

「それで学生を何年やったの。」

と聞かれる。八年!それだけやれば十分かな。

時刻は十二時半、そろそろお腹が空いてきたので、義母と僕は教会の建物の前にあるベンチに腰掛けて、弁当を食べる。

握り飯を食い、麦茶を飲んだ後、僕たちは教会の中に入った。受付の老人に、大聖堂に入ったときと同じことを聞かれる。日本から来たと言うと、日本語のパンフレットをくれた。教会の中は、天井の飾りが少し変わっているが、他の英国の教会と基本的に同じだ。

僕は、ひとつの装置の前で足を止めた。日本の庭園にある「猪脅し」(ししおどし)と少し似ている。しかし、筒は真ん中で固定され、「やじろべい」のように左右に傾く。水は筒の真ん中から注入され、両側のどちらか一方から流れ出る。筒が右側に傾いていると右側から水が出て、左側に傾いていると左側から水が出る。説明によると、次にこの筒が、右に傾くか左に傾くか、科学的に説明は出来ないそうだ。つまり、公式を当てはめて、コンピューターでシミュレーションするということが不可能な装置らしい。

「世の中、科学で証明できないことがありまっせ。」

と言うことを証明するための装置らしい。

科学で証明できないこと=神の存在を示す装置。

 

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